HOME > メディア・学会活動 > 日本商工倶楽部・連載記事 > DR. アベの健康外来_19 二つの訃報

メディア・学会活動

DR. アベの健康外来_19 二つの訃報

2013/04/10【日本商工倶楽部・連載記事】

(2013年4月1日 647号掲載)

 

長い間 ― と言ってもわずか25年ですが、外来診療で多くの患者さんを診てきました。時には予想もつかないことが起こることに驚きます。


先日のある朝8時30分になり、いつものようにさあ診療開始だと気合を入れたその時、看護師が「先生、警察から電話がかかっています。出て頂けますか?」と呼びに来ました。私は何事かと心持ち不安になりながら電話口に出ると、「先生、○○さんをご存知ですか?九段クリニックの診察券をお持ちだったので何か分かることがないかと・・・」。「交通事故か何かあったのですか?」と聞き返すと、「実は今朝、路上で亡くなっているところを発見されましたので・・・」。早速私は○○氏のカルテを取り出してみると愕然としました。私のところに最後に診察に来られたのが5年前で、その時まだ45歳の若さでした。健康診断で心電図に異常があるため、精査と治療のために受診していました。診断名は肥大型心筋症です。治療には半年ほど通われましたが、その後来院されていません。恐らく症状がまったくないため、つい足が遠のいたと思われます。しかし、肥大型心筋症には不整脈の発作が起こり、心室細動となり突然死を起こす危険があるのです。この例も不整脈による突然死であると考えられます。定期的に受診していただいていたなら事前に予兆をとらえ、このような惨事を防ぐことが出来たかも知れません。

 

もう一つの残念な知らせは、ある母親から御子息の訃報の手紙でした。その家庭は両親と子供二人の4人家族でした。30年ほど前、父親がマルファン症候群で突然亡くなってしまったことから、6歳の長男を連れて私のところに診断の依頼で来院されました。マルファン症候群とは結合組織の病気で、心臓の弁膜や大動脈が脆弱なため、弁膜症により心不全となったり、大動脈瘤破裂などで命を落とすことが知られています。この時はまだ症状は出ていませんでしたが、診察の結果、残念ながら父親と同じ病気であることが判りました。

 

その後、毎年定期的に私のところで健診を続け、20歳の背の高い立派な青年に成長したとき、胸部大動脈に初期の解離性大動脈瘤が発生したのを確認しました。直ちに心臓外科チームと連携を取り、大動脈置換術により一命を取り留めました。術後経過も良好で、職場にも復帰し通常の人と変わりのない生活を送っていました。私も参加している「マルファン症候群患者を支援する会」の開催イベントに参加出演もしていただいた時には、経過は順調のご様子でした。というのは、その後の経過は外科チームが診ていたので、内科には診ていただく必要はないと考えたのでしょうか、手術後には私の診察にはお見えになりませんでした。

 

突然の母親からの手紙に驚き、電話をしてみると「朝起きて寝室に入ってみると、すでに冷たくなっていました。本人は太く短い人生であることを知っていたようです。」と人生の定めを予想していたような、悟られたようなお声で話してくれました。

 

今回経験した2症例は、大切な教訓を私たちに問いかけています。

 

症状がなくても、病的所見がある場合には、内科的な経過観察が必要であること。また後の症例のように手術をした場合、その後内科の手を離れるのではなく、外科・内科の両方の視点で経過を見てゆくべきであることを、患者さまも理解していただきたいということです。

 

主治医ではなく「主侍医」という言葉がありますが、内科医はまさにその字のごとく、人生に寄り添って支えるのが仕事なのです。

 

九段クリニック 阿部 博幸

 



ページトップ

"
Copyright KUDAN