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DR. アベの健康外来_5 急激な血糖値の上昇 ― 膵臓がんを疑うが実は...

2012/02/12【日本商工倶楽部・連載記事】

(2010年12月1日 633号掲載)
 
外来における患者様の健康管理の難しさを示す例に遭遇したので、お話ししましょう。
たまたま研究発表で海外出張が重なったため、この3ヶ月はA氏(72歳)に直接診察することができなかったので、代理の医師が診察し、高血圧の薬などを処方していました。残念ながらこの間にA氏には血液検査を含め検査というものは全く行われていませんでした。
一方、私の予約診察日にA氏が受診できなかったのにも理由がありました。この頃の経済不況の中で多くの企業が再生の糸口を探ろうと、A氏に講演依頼が殺到していました。それも首都圏のみならず北は北海道から南は沖縄まで、すべてをこなすのはハードワークであることは想像に難くありません。ストレスに加え、閉会後に懇親会などがあれば、控えているつもりでも知らず知らずのうちにカロリーオーバーとなっていたのでしょう。
3ヶ月ぶりに私の診察日に来院した時は、いつもより体重が増加しているように思い、肝・腎・尿酸・糖尿・コレステロールなど代謝を中心に血液検査を行いました。血圧は上が180、下が100mmHgと高い値を示していました。体力の限界に近い状態でがんばっていたものと受け止めていいでしょう。
血液検査の結果は私を驚かせました。以前には空腹時で95mg/dlだった血糖値が、食事抜きで採血したにも関わらず240mg/dlまでにも上昇していました。過去1ヶ月の血糖レベルを反映しているHbA1cも7.8%と確実に糖尿病の診断規準に分類される数字でした。糖尿病の4人に1人はがんで亡くなることも知られていますので、私は腫瘍マーカーなど精査の上で食餌療法と経口糖尿病薬で時間をかけて治療をしようと考えましたが、心配になった本人の希望で糖尿病専門病院に入院することとなりました。予想通りインスリン注射療法となり、みるみる痩せていきました。また、血糖が急激に上昇する場合には膵臓がん発症の疑いがあるのでと、当院での腫瘍マーカーは正常でしたが別の消化器外科で入院精査となりました。幸い膵臓は異常なしと判定され、無事退院となりました。
再び診察に訪れたのは一ヶ月半ほど経過していましたが、体型はスリムとなってはいるものの、いつものオーラは消え失せていることに多少戸惑いました。
その数日後、家族の方から電話があり、まもなく現れたA氏はすこぶる元気な様子でしたが、今朝、坂道を急ぎ足で登ったところ急に息が詰まって苦しくなり、大きく深呼吸したらスーっと楽になったとのこと。
私は軽い心筋梗塞をおこした!と直感し、心電図、血液検査、MRAの検査で診断を確定し、直ちに循環器の専門医のもとに紹介となりました。心臓カテーテル検査で、左冠動脈の前下行枝にクリチカルな狭窄があり、これが胸部の痛みの原因であったことが判明。この部分の血管を拡げステントを留置して事無を得ました。
この例の教訓として、一つは一人の医師による継続的な診療の重要性を痛感しました。二つ目に心筋梗塞のリスクファクターは体のバランスが崩れたときに危険性を発生することを、再確認させられました。自己の体力の限界を知ることが重要ですね。くれぐれも無理をなさぬ様に。
 
九段クリニック 阿部 博幸



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